浦和地方裁判所 昭和45年(ワ)208号 判決 1971年3月22日
原告
吉野徳寿
被告
渡辺壮一
ほか二名
主文
一、被告渡辺壮一および被告高橋保志両名は各自原告に対し、金三、五五七、三七一円およびこれに対する被告渡辺壮一については昭和四五年五月二二日から、被告高橋保志については昭和四五年四月一五日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告の被告渡辺壮一および被告高橋保志に対するその余の請求および被告香川義春に対する請求は何れもこれを棄却する。
三、訴訟費用中、原告と被告渡辺壮一および被告高橋保志との間に生じたものはこれを三分し、その一を原告の、その余を同被告らの各負担とし、原告と被告香川義春との間に生じたものはこれを原告の負担とする。
四、この判決は、原告において被告渡辺壮一、同高橋保志各自に対しそれぞれ金三〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
被告らは、各自原告に対し、金五、三八五、二〇九円およびこれに対する被告渡辺壮一については昭和四五年五月二二日から、被告高橋保志については昭和四五年四月一五日から、被告香川義春については昭和四五年七月一一日から、それぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
との判決および仮執行の宣言を求める。
二、被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二、請求原因
一、事故の発生
原告吉野徳寿(以下原告という。)は、昭和四二年四月四日午前一〇時五〇分頃自家用小型貨物自動車(埼4む三〇五〇―以下原告車という。)に同人の妻である訴外吉野操(以下操という。)を乗せて、東京都板橋区東坂下町二丁目四番の一〇号先国道一七号線路上を志村橋方面から志村方面に向けて時速約四〇キロメートルで走行中、前に進行中の被告香川義春(以下被告香川という。)の運転する自転車との衝突を避けるため急制動の措置を採つたところ後方から進行して来た被告渡辺壮一(以下被告渡辺という。)の運転する普通貨物自動車(練馬4は六二九七―以下被告車という。)に追突され、このため原告は陳旧性脊椎(第十二胸椎)圧迫骨折および陳旧性頸部捻挫(鞭打損傷)の傷害を負つた。
二、被告香川および被告渡辺の過失
本件事故は、自転車を運転していた被告香川が本件事故発生地点手前の左側道路端に停車中の貨物自動車(番号その他不明)を追い越すため道路中央線寄りに進行方向を変えた際、後続車両の存否を確かめることなく漫然と同方向に進路を変更し走行を続けたため、原告車をして右被告香川の運転する自転車との接触を避けるため急制動の措置を採るのやむなきに至らしめた被告香川の過失と、被告渡辺が自動車を運転するについては何時でも追突を防止するに必要な車間距離を採り常に進路前方を警戒し危害を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然と運転した被告渡辺の過失とによつて生じたものである。
三、被告らの責任
前記のとおり被告渡辺が追突防止のため必要な車間距離を保持せずに漫然被告車を運転した過失により本件事故を惹起したものであるから被告渡辺は民法第七〇九条により、被告車は被告高橋保志(以下被告高橋という。)の保有に係るものであり、右事故は被告高橋の従業員である被告渡辺が被告高橋の業務に従事中生じたものであり、被告渡辺が本件事故の一カ月前に酒酔運転により罰金二万円に処せられ、更に本件事故発生後数カ月を経て即死事故を起しているにもかかわらず、斯かる者を自動車運転に従事させた被告高橋はその選任監督に過失があつたものであるから、被告高橋は自動車損害賠償保障法第三条、民法第七一五条により、被告香川は後続車両の有無を注意することなく後続車両と衝突する危険のある道路中央線寄りを漫然走行しよつて原告車に急制動の措置を採るのやむなきに至らしめ、よつて本件追突事故を誘発せしめたのであるから民法第七〇九条により、それぞれ原告が蒙つた後記損害を賠償する責任がある。
四、損害
(一) 治療費 金八〇、二〇九円
1 上板橋病院に対するもの 金八、四〇〇円
2 竹川病院に対するもの 金六、八五〇円
3 腰椎用軟性コルセツト代金 金七、一〇〇円
4 埼玉中央病院に対するもの 金五、〇二一円
5 治療に伴う雑費 金一一、四一八円
6 治療に伴う交通費 金四一、四二〇円
(二) 得べかりし利益 金三、二一〇、〇〇〇円
原告は浦和市常盤三丁目二二番一五号において先代より「吉野畳本店」を屋号として畳職を営んできたが、本件事故により昭和四二年四月六日より同年六月一〇日まで竹川病院に入院し、同年六月一二日より同年一〇月八日まで同病院に、同年一〇月九日より翌昭和四三年三月三一日まで上板橋病院に、その後は埼玉中央病院にそれぞれ通院したが、事故発生後二年間は前記鞭打ち症による後遺症のため全く稼働することができなかつたから右期間中、一カ月の稼働日数を二五日間とし、昭和四二年度の一日当り工賃を金二、七〇〇円、昭和四三年度の一日当りの工賃を金三、二〇〇円として計算し合計金一、七七〇、〇〇〇円の休業損害を蒙つた。原告は右期間後も足腰のしびれ、気候の変り目における疼痛により不眠症を来たし十分な作業に就くことができず現在に至るも治癒の見込みはなく、従つて右症状は昭和四七年三月までは継続するものと考えられるので、本件事故発生後の三年目である昭和四四年四月から同四七年三月までの三カ年間につき年間一五〇日稼働できるものとし一日当りの工賃を金三、二〇〇円として計算すれば、右期間中の得べかりし利益は合計金一、四四〇、〇〇〇円となる。よつて本件事故によつて原告が失つた得べかり利益の総計額は金三、二一〇、〇〇〇円となる。
(三) 慰藉料 金二、〇九五、〇〇〇円
原告の前記後遺症および原告の入、通院の期間その他諸般の事情を考慮すると、原告の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては金二、〇九五、〇〇〇円が相当である。
五、結論
よつて原告は被告ら各自に対し四、(一)(二)(三)の合計金五、三八五、二〇九円およびこれに対するいずれも本訴状送達の日の翌日である被告渡辺については昭和四五年五月二二日から、被告高橋については昭和四五年四月一五日から、被告香川については昭和四五年七月一一日からそれぞれ完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三、請求原因に対する認否
一、被告渡辺、被告高橋の認否
(一) 請求原因第一項に対して、原告主張の日時・場所において原告車に被告車が追突したことは認める。原告の傷害は不知。
(二) 同第二項は否認する。
(三) 同第三項中、被告車が被告高橋の所有であること、被告渡辺が被告高橋の従業員であること、本件事故が被告高橋の業務に従事中に生じたことは認め、その余は否認する。
(四) 同第四項は不知。
二、被告香川の認否
(一) 請求原因第一項に対して、原告主張の日時・場所において原告車に被告車が追突したことは認める。原告の傷害は不知。
(二) 同第二項は否認する。本件事故の発生は被告香川の過失によるものではなく原告の過失によるものである。即ち、被告香川は事故発生を避けるため道路左側を進行しており原告車に衝突する危険のある道路中央線寄りの処まで出たことはなく、本件事故発生地点は三車線であり原告車はその中央を進行中であつたが、右側に通行する車もなく、仮りに被告香川が中央線寄りに進行方向を変更したとしても、右に進路を容易に変更して急制動の措置を採らなくてもよかつた筈である。従つて原告は前方不注意の過失があり被告香川には何らの過失がない。
(三) 同第三項、第四項はいずれも不知。
第四、被告渡辺、被告高橋の抗弁
一、損害の一部弁済の抗弁
被告らは原告に対し本件事故による損害を填補するものとして、金二二〇、〇〇〇円を支払い、原告はこれを受領した。
二、過失相殺の抗弁
仮に被告渡辺に前述のとおりの過失が認められるとしても、原告は被告香川が大きな荷物を自転車に積んで走行中であり、本件事故当日はかなりの強風が吹いていたこともあつて被告香川の自転車が蛇行しているのを目撃している以上、その動静に十分注意して運転し、被告香川が中央線寄りに進路を変更したとしても急制動の措置を採らずに停止できるだけの速度で進行しなければならぬ注意義務があるのに漫然進行した過失が認められるから、損害賠償額算定につき斟酌されねばならない。
第五、抗弁に対する認否
一、抗弁第一項の事実について、被告主張の金員を受領したことは認めるが、右金員は弁護士費用として受領したものである。
二、同第二項は否認する。即ち、原告は被告香川の動向に十分留意し、一旦はブレーキを踏んで徐行した。更に被告香川の進路前方に貨物自動車が停車していたが、斯かる場合およそ自転車を運転する者は後続車両の有無を確認してから追い越す義務があるのに被告香川は右義務を怠り漫然進行して来たので、右被告香川の自転車との接触を避けるためにやむを得ず警笛を鳴らして急制動の措置を採つたのである。被告渡辺は、時速約四〇キロメートルで走行していたのであるから少なくとも一三メートルの車間距離を保つ必要があるのにこれを遵守せず、かつ前方を常に注意し先行車の動静等道路事情に注意して運転しなければならないのにこれを怠り、よつて本件事故が発生したのであるから、原告には何の過失もない。
第六、証拠〔略〕
理由
一、事故の発生
請求原因第一項の事実中、原告主張の日時・場所において原告車に被告車が追突したことは当事者間に争いがなく、しかして〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により陳旧性脊椎(第十二胸椎)圧迫骨折および陳旧性頸部捻挫(鞭打損傷)の傷害を負つたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
二、被告渡辺の責任
(一) 〔証拠略〕を総合すると、原告は、妻である操を原告車に乗せ、幅員一六・六メートルの東京都板橋区東坂下町二丁目四番地の一〇号先国道一七号線路上を志村橋方面から志村方面に向けて走行中、道路左側端を被告香川が縦横約四〇センチメートル、高さ約七〇センチメートルの段ボール箱を積んで折からの強風に蛇行しながら自転車で走行しているのを発見したこと、その後原告車、被告香川の自転車が共に二、三〇メートル前進したところで被告香川の前方に貨物自動車が停車しており、被告香川は右自動車を追い越すためには中央線寄りに進路を変更しなければならなかつたこと、その際被告香川は後続する車両の有無を確認してから中央線寄りに進路変更をしなければならないのに、何ら確認することなく右方向に進路を変更したこと、右状況を知つた原告は原告車をそのまま走行させたのでは被告香川の運転する自転車に接触させてしまう危険を感じたが右同車線内は七、八台の自動車が走行しており同方向に進路を変えることができなかつたので、徐行するべく原告車後方を時速約四〇キロメートル以上で原告車との車間距離を縮めながら走行して来た被告渡辺の運転する被告車に右危険な状況を知らせるべく制動措置をとり停止信号をみせて速度をおとしたこと、ところで被告香川は停車中の右貨物自動車を追い越した後もいつこうに進路を左に変更せず中央車線寄りを走行し続けたので原告は衝突の危険を感じやむを得ず急制動の措置を採つて一時停止したこと、ところが原告車が一時停止した時すでに被告車は原告車の前記停止信号を注意することなく原告車の後方約車一台分の車間距離に迫つていたため右被告車は急制動の措置を採る暇もなく原告車に追突して本件事故となつたものであることが認められる。〔証拠略〕中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 自動車損害賠償保障法第三条の規定により無過失の立証責任が運行供用者側にあることはもとより明白であるが、元来、先行車両の直後に進行する車両は、先行車が急停車したときにおいても追突をさけるため必要な車間距離を保持しなければならない(道路交通法第二六条一項)のであるから、被追突車が全く停車する必要がない地点で停車したとか被追突車が他車を追い越したうえ他車の進路前方に出た途端急ブレーキをかけたなど、特に追突を誘発する原因となるような不適切な停車を被追突車がしたという特別の事情がある場合は別として、かかる特別事情の存しない限り一般的には被追突車に過失がなく追突車に過失があるものと推定するのが相当である。
そこで本件事故について右にのべた特別事情が存したか否かについて審究するに、前掲各証拠によれば、被告渡辺は被告香川の自転車が原告車前方左側を大きな段ボール箱を積み折からの強風をうけて蛇行していたこと、被告香川の前方に貨物自動車が停止中であり被告香川が右自動車を追い越すためには道路右側の中央車線寄りに進路を変更しなければならぬこと、および原告車の存在を何れも知つていたことが認められる。右事実によれば、被告渡辺は、右進路変更によつて原告車と被告香川の自転車が接触する可能性のあることを認識しながら、脇見運転のために原告車が一時停止したことの発見がおくれ急制動の措置を採る暇のなかつたことが認められる。そして本件事故は、前に認定したとおり被告香川の後続車両不注意のため原告は被告香川との衝突を避けるためやむを得ず急制動の措置を採つたものであることを考え合わせれば、原告車が一時停止したのは全く一時停止する必要がないのに一時停止したのではなく、自ら十分に注意義務を尽くしたうえやむを得ず行なつたことであり、原告の本件事故発生についての無過失の推定を打ち破るに足りる特段の事情は認めることができず、かえつて被告渡辺の一方的な過失により惹起されたものと認めざるを得ない。
従つて被告渡辺は不法行為者として民法第七〇九条により原告が蒙つた後記全損害を賠償する責任がある。
三、被告高橋の責任
被告高橋が本件事故当時被告車を所有し、これを自己のための運行の用に供していたこと、本件事故が被告高橋の被用者である被告渡辺が被告高橋の業務の執行中に発生したことは当事者間に争いがないから、被告高橋は自動車損害賠償保障法第三条及び民法第七一五条により原告が蒙つた後記全損害を賠償する責任がある。
四、被告香川の責任
〔証拠略〕を総合すれば、被告香川が後続車両の有無を確かめることなく漫然停車中の貨物自動車を追い越すために右側中央車線寄りに進路を変更したことによつて原告車が被告香川の自転車との衝突を避けるため急制動の措置を採らざるを得なかつた事実が認められる。しかしながら本件事故はひとえに被告渡辺の車間距離の不保持と云う過失により惹起されたものであつて、前行する自転車を運転する者が仮に後続車両を注意しなかつたからと云つて必ず本件のような事故が発生するとは限らず、従つて被告香川の過失と本件事故の発生の間には相当因果関係は存しなかつたと認めるのが相当である。従つて被告香川は原告の後記損害を賠償する責任はない。
五、損害
(一) 財産的損害
(1) 原告の支出した費用
〔証拠略〕を総合すると、原告が次のような支出をしたことが認められ、原告は右支出により同額の損害を蒙つたことになる。しかして右の損害は本件事故と相当因果関係に立つ損害というべきである。
(イ) 上板橋通院治療費 金八、四〇〇円〔証拠略〕
(ロ) 竹川病院通院治療費 金六、八五〇円〔証拠略〕
(ハ) 埼玉中央病院通院治療費 金五、〇二一円〔証拠略〕
(ニ) 腰椎用軟性コルセット代金 金七、一〇〇円〔証拠略〕
(ホ) 治療に伴う交通費 金一〇、〇〇〇円〔証拠略〕
合計金 三七、三七一円
なお、〔証拠略〕によれば、原告は右の他にも合計金四二、八三八円(すし代金一、三六〇円、砂糖代金八、一八〇円、交通費金三一、四二〇円)を支出したことが認められるが、前記各証拠によるとすし代は看護婦に対するお礼として、砂糖代は見舞品に対するお返しとして支出していることが認められ、従つて右各支出は本件事故と相当因果関係にある損害ということはできず、交通費についても原告が入院中原告の第三者が見舞その他に使用したものであり原告自身が本件事故による疾病のためやむを得ず使用したものではないことが認められ、また原告の家族の生活程度に照らし必ず見舞にタクシーを利用しなければならなかつたことは認められず、他に右認定を覆すに足りる証拠もないので、電車等の乗物を利用すれば当然支出した筈のものとして前記(ホ)のとおり金一〇、〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係ありと認めた。
(2) 原告の得べかりし利益
〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故の結果、昭和四二年四月六日から同年六月一〇日まで竹川病院に入院し、同年六月一三日から同年一〇月八日まで同病院に通院し、同年一〇月九日より同四三年三月三一日まで上板橋病院に通院し、その後は埼玉中央病院に相当期間通院し、その間足腰のしびれ、気候の変り目における疼痛によつて不眠症を来たし、事故発生後約二年三カ月間は全く稼働出来ず右期間後も現在に至るまで一カ月一〇日位しか稼働できないことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
もとより、この種疾病の性質上、その転機は被害者自身の精神力、意思力等に依存するところが大であるけれども、いわゆる鞭打ち症の結果被害者がこの種の状態になる例は裁判所に顕著な事実であるから、原告主張のような状態も本件のような事故によつて通常生ずることが予想されるところと云うべきであり、したがつてこれによる損害も社会通念上事故と相当因果関係ある損害としてその賠償を命ずべきである。しかしながら前記認定のような本件事故における傷害の態様および右鞭打ち症の内容、程度、継続状況等に照らし、一方では右鞭打ち症が多分に神経的なものであり損害賠償問題の解決や被害者自身の努力によつて好転する見込みのあるのが通例であることを考え合わせて、本件事故発生日たる昭和四二年四月五日から昭和四六年二月二八日までに右鞭打ち症によつて生じた損害については本件事故と相当因果関係を肯定すべきものと考える。
〔証拠略〕によれば、原告は畳営業をなす者であり、その工賃は昭和四二年度で一日当り金二、七〇〇円、昭和四三年度以降で一日当り金三、二〇〇円であり、原告は本年事故発生前一カ月二五日間は稼働していたことが認められる。従つて右事実と前記認定の原告の稼働しなかつた期間を合わせて考えると、原告の収入は、昭和四二年度金八一〇、〇〇〇円(昭和42年4月4日―43年3月31日、25日×12月=300日×2,700円=810,000円)昭和四三年度金九六〇、〇〇〇円(昭和43年4月1日―44年3月31日、25日×12月=300日×3,200円=960,000円)昭和四四年度金六六二、〇〇〇円(昭和44年4月1日―45年3月31日、25日×3月=75日×3200円=240,000円 15日×9月=135日×3200円=432,000円昭和四五年度(但し一一カ月分)金五二八、〇〇〇円(昭和45年4月1日―46年2月28日、15日×11月=165日×3,200円=528,000円)合計金二、九七〇、〇〇〇円減少しており、本件事故以外に右の収入の減少を生ずべき特段の事情の存したことについて立証はないから、原告は少くとも右金二、九七〇、〇〇〇円に相当する損害を蒙つたものと認めるのが相当である。
(二) 慰藉料
原告が本件事故により二カ月間入院し、その後も一年間以上通院による治療を受けていること、現在に至るも不眠症が全く完治していないこと等、前認定の諸事実に加え、原告本人尋問の結果によつて認められるところの、本件事故による営業不振になつた事実、その他本件全証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すると、原告が受けるべき慰藉料の額は金五五〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
(三) 被告らの弁済
本件事故に関する損害賠償として、被告渡辺から金二〇、〇〇〇円被告高橋から金二〇〇、〇〇〇円がそれぞれ原告に対し弁済されたことについては当事者間に争いがない。ところで、右金員が本件事故による損害賠償額の如何なる部分に充当されたかは本件全証拠によるも明らかではない。しかし不法行為の被害者が賠償義務の履行を受けられない場合権利を実現するには訴を提起することを要し、そのためには弁護士に訴訟委任することはやむを得ないところであり、しかして本件事故のような不法行為による損害賠償請求訴訟をなす場合に要した弁護士費用のうち権利の伸張防禦に必要な相当額は当該不法行為によつて生じた損害と解するのが相当であるが、その額は事案の難易・認容すべきとされた損害額その他諸般の事情を斟酌して決定すべきところ、これを本件についてみれば金二二〇、〇〇〇円が被告らをして原告に対し賠償させるべき弁護士費用と認めるのを相当とし、しかも弁論の全趣旨によると原告は予め右被告ら支払いの金二二〇、〇〇〇円を弁護士費用に充当する意思のもとにあえて本訴においては弁護士費用を請求しなかつたことが認められるから、原告の主張のとおり右被告ら支払いの金員を弁護士費用に充当するをもつて相当とする。
六、結論
よつて原告の被告渡辺同高橋に対する本訴請求は、右被告両名各自に対し、五(一)(1)の金三七、三七一円・(2)の金二、九七〇、〇〇〇円(二)の金五五〇、〇〇〇円合計金三、五五七、三七一円およびこれに対する被告渡辺は本件訴状送達の日の翌日であること本件記録に徴し明らかな昭和四五年五月二二日から、被告高橋は本件訴状送達の日の翌日であること本件記録に徴し明らかな昭和四五年四月一五日からそれぞれ完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においては理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告の被告香川に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項を、仮執行の宣言については同法第一九六条第一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松澤二郎)